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東京地方裁判所 平成9年(ワ)4877号 判決 1998年5月26日

原告

裵光子こと安藤光子

被告

岡部賢一

ほか一名

主文

1  被告らは、原告に対し、金三九八万〇三二六円とこれに対する平成五年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の各自支払をせよ。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

一  申立

1  原告(請求の趣旨)

(一)  被告らは、原告に対し、金二二八一万八〇一五円とこれに対する平成五年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の各自支払をせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求めた。

2  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

二  事案の概要

本件は、原告が、後記の本件交通事故による損害賠償を被告岡部(加害車両運転者)と被告会社(運行供用者・使用者)に訴求する事案である。なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

1  争いのない事実等

原告を被害者とする次のとおりの交通事故(以下「本件交通事故」という。)が発生した。そして、(一) 被告岡部は加害車両を運転し本件交通事故を発生させたもの、(二) 被告会社は加害車両を所有しこれを自己のために運行の用に供していたうえ、その一般用旅客自動車運送業の事業執行中に被用者の被告岡部が本件交通事故を発生させたものであるから、被告ら各自は、民法七〇九条、七一五条一項ないし自動車損害賠償保障法三条により、本件交通事故によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(本件交通事故の内容)

<1> 日時 平成五年九月一〇日午前三時一五分頃

<2> 場所 東京都国分寺市東元町一―一一先路上

<3> 加害車両 事業用普通自動車(多摩55う三九六二)(被告岡部運転)

<4> 事故態様 反対車線を走行していた車両が加害車両に衝突しそうになったため、被告岡部が急制動をかけたところ、後部座席に乗車中の原告がその頭部を防犯ガラスにぶつけた。

原告は、本件交通事故の治療であるとして、平成五年九月一〇日から平成六年一月二五日まで東京都立府中病院に通院したほか(実日数一三日)、平成五年一一月八日から平成六年一月二八日まで福原病院に入院(八二日)した後、同月二九日から平成七年四月一一日まで同病院に通院した(実日数九五日)。また、原告は、福原病院への通院期間中の平成六年九月二〇日から平成七年三月七日まで府中病院に通院した(実日数六日)。そして、平成七年四月一九日付の診断書(傷病名・頭・頸部外傷〔神経学的な他覚所見は少ないとする記載があるもの〕)に基づき、自動車損害賠償責任保険上、後遺障害一四級一〇号の認定を受けている。

(当事者間に争いがない事実、記録上明らかな事実、証拠〔甲第一号証、第三、四号証、乙第三号証の各一・二、第四号証の一ないし一五、第五号証の一ないし六、第九号証〕及び弁論の全趣旨により認める。)

2  争点

(一)  原告は、原告の後遺障害が自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一二号に該当すると主張する。

(二)  被告らは、原告の損害主張(三1ないし8参照)の全般を争うが、殊に、

(1) 本件交通事故の態様も原告の受傷の程度もたいしたものではなく、本件交通事故後の治療は、原告の既往症に対する治療行為であるとみられる。

(2) 原告の痛みが左側のみに現れているというのは、原告の症状が頸椎捻挫ではないことの証左でもある。

等と主張する。

また、被告らは、原告が泥酔状態で加害車両に乗り、不安定な姿勢で座席に横になっていたという特殊な状況の下で本件程度の急制動で受傷したとして、損害の過半を原告が負担するべきであると主張する。

三  当裁判所の判断

まず、原告は、その後遺障害が自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一二号に該当すると主張するが、自動車損害賠償責任保険上の認定(二1参照〔平成七年四月一九日症状固定、一四級一〇号〕)を越えることの的確な立証はないから、原告の後遺障害の程度は、右のとおりのものというべきである。

次に、被告らは、原告の傷害ないし後遺障害について原告の既往症が寄与していると主張し、甲第二号証(支倉逸人作成の意見書)にはこれに沿う記載がある。

しかしながら、本件においては本件交通事故の態様に関する的確な資料はないうえ、右意見書もその根拠に乏しく(以前の福原病院での二回の受診記録から所論のような推認が働くとするのは困難である。本件交通事故後の原告の主訴について他覚的所見の少ないことをもって原告の既往症の寄与を肯定したり、直ちに本件交通事故の治療として相当性を欠くということもできない。)、採用することはできない。なお、原告の痛みの自覚が左側のみに多く現れたことや加害車両の同乗者に傷害が生じたか否かが不明であること(原告本人尋問参照)をもって、頸椎捻挫を否定することができないことは多言を要しない。

また、本件においては、過失相殺に該当する事由として被告らが主張する点を認めるに足りる証拠はない。

そこで、以上のことを前提として、本件交通事故によって原告が被った損害の額について判断をすすめる。

1  治療費 九一万六三五〇円(原告主張額・一〇四万一二八〇円)

治療の相当性についての被告ら主張についての判断は、先に説示したとおりである。

もっとも、証拠(甲第五号証、乙第五号証の一、二、第九号証)により認められる原告の外出・外泊の頻度及び原告の主訴についての他覚的所見の程度を併せると、原告本人の弁疎を考慮しても、原告の受けた治療全部について本件交通事故と相当因果関係を認めるのは難しく、当裁判所は、二1の治療の経緯と右書証に照らし、そのうち福原病院の退院以降の分を除く頭書金額を本件交通事故による損害額と判断する(右の額は、証拠〔乙第四号証の四、第五号証の三ないし五)によって認めた。)。

2  交通費 九三六〇円(原告主張額・一四万一一二〇円)

原告の平成六年一月三一日までの府中病院通院分について認める(乙第六号証)。その余の原告の通院治療が本件交通事故と因果関係を認めるに由ないことについては、1で説示したとおりであり、また、安藤美保の付添の必要性は、本件全証拠によってもこれを認めることができない。

3  付添看護費 認めない(原告主張額・四九万二〇〇〇円)

2で説示したとおり、認めることができない。

4  入院雑費 八万二〇〇〇円(原告主張額・一〇万六六〇〇円)

福原病院入院期間(八二日)全部について認めるが、その日額は、1で説示の外泊・外出の頻度を考慮し、一〇〇〇円の限度で本件交通事故と相当因果関係のある損害と判断する。

5  休業損害 八四万一四一三円(原告主張額・四三七万九〇八〇円)

まず、本件においては、原告本人が代表者を務める会社作成名義の休業損害証明書と給与所得の源泉徴収票(乙第八号証の一・二)をもって基礎収入の根拠とすることはできない。また、証拠(乙第一一号証の一ないし四)によると、原告は、平成四年ないし平成七年までの給与収入がそれぞれ三六五万円、三六〇万円、二四〇万円、一九八万円であるとする税務処理をしていることが認められるが、その給与収入先が原告本人が代表者を務める会社であり、事柄の性質上、原告じしんの裁量に委ねられる部分のあること(右事実は、乙第一〇号証によって認める。)及び以下に述べるような事実に照らせば、右の減収分を基礎収入の根拠とすることもできない。

そこで、平成五年賃金センサス第一巻第一表の女子全年齢平均三一五万五三〇〇円を基礎収入とし、通院の頻度、入院期間中における前示外泊・外出の頻度等、本件に現れた事情を総合して、本件交通事故から福原病院退院直後までの五か月はその五割、その後症状固定までの一四か月はその五分の限度を下らない額をもって原告の休業損害の額と判断する。

6  逸失利益 四三万一二〇三円(原告主張額・一一一八万七九三五円)

5で説示の基礎収入三一五万五三〇〇円に、労働能力喪失率を五分とし、なお、乙第九号証から窺える原告の状況に照らし労働能力喪失期間を三年間(年五分のライプニッツ係数二・七三三二)として現価を求めることとする。

7  入院通院慰謝料 一〇五万円(原告主張額・一五二万円)

1で説示した入通院の状況に照らし、頭書金額が相当である。

8  後遺障害慰謝料 一〇〇万円(原告主張額・二五〇万円)

原告の後遺障害は、前示のとおり、自動車損害賠償保障法施行令別表一四級一〇号に該当するものであり、頭書金額が相当である。

9  小計(1ないし8の合計からてん補額を控除) 三五八万〇三二六円

以上合計四三三万〇三二六円から損害のてん補(原告自認の七五万円)を控除すると、頭書金額となる。

10  弁護士費用 四〇万円

原告が本件訴訟を原告代理人に委任したことは、記録上明らかである。本件事案の内容・審理経過、認容額等の事情に照らせば、頭書金額が相当であり、これを9の額に加算すると、三九八万〇三二六円となる。

以上によれば、原告の本訴請求は右の三九八万〇三二六円とこれに対する平成五年九月一〇日(本件交通事故の日)から支払ずみまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、その余は失当として棄却を免れない。よって、訴訟費用の負担について、民事訴訟法六一条、六四条、六五条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀穗)

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